「点 音(おとだて)」は、サウンド・アーティスト鈴木昭男の代表作のひとつであり、1996年ベルリンでのはじまり以来、世界30都市以上で開催されています。街路に公園にトンネルにと白く記されたエコーポイントマークをたどり、足を揃え耳澄ますというこの音のプロジェクトが、これほどに愛されるのはなぜでしょうか。
鈴木は、野外で楽しむ茶会「野点(のだて)」に倣い、このプロジェクトを「点 音」と名付けました。「野点」はただ茶を嗜むだけでなく遷りゆく季節やそれに伴って姿を変ずる自然、ときには、石積みで炉をつくり、沢に水を求め、湯を沸かす薪を選ぶことまでを含んだといいます。なるほど、「点 音」も同じく、音に限らず街中にさまざまな興趣(あじわいとおもしろみ)を見出すものだと言えるでしょう。
エコーポイントマークに足を揃える時、わたしたちは自然に居住まいを正します。それは、「点 音」の源流となった音響と向き合うための鈴木の行為を、「点 音」がなぞっているからです。鈴木による、たとえば小川に枝を差し入れせせらぎの音の変化を聞き分けるといった、「なげかけ」と「たどり」による一連の自修を、わたしたち自身が厳しく行うことは確かに困難でしょう。しかし、鈴木のその態度を心に置いてマークに立つときには、そこで行われた鈴木の「なげかけ」の反響を心にたどりつつ、わたしたちもまた、自身を包みこむ世界に真摯に向かい合うのです。鈴木は言います。マークに佇めばスイッチが入り、そのあいだ、聞く者たちの音楽が流れるのだと。その態度があれば、興趣あるものごとはだれにでも、またいずこにも出現し得るということを、「点 音」は物語っています。